「老婆の腕」から脱皮したい

〔モデル 22才 女性〕
老婆

「あなたにはわからないでしょうね!」と叫んで、世間の失笑を買った号泣市議が数年前に話題になったが、似た様な言葉をこっそりと何度も心の中で呟いていた私には、どうにもその人の事を嘲笑うことができなかった。

ウェイトレスが私の席に水を汲みに来て、私のがさがさとした手に気づき、ぎょっとした表情を一瞬浮かべては慌てて目線を外した時も私は呟いてしまう。まあ、こんなことは一日に何度もあるのだが。
「あなたにはわからないでしょうね」。

でもね、あれよ。
一番皆が「わからない」であろう事は、年頃の若い娘に本来与えられているはずの「この世の楽しみ」のことごとくが、この手や首や背中のお陰で「私には与えられない」という理不尽に対して、一体全体「私が何を思うのか?」って事よ。

あなたはどうなのかしら、BC30子さん?

初対面だというのに、5分以上もじっと私を見つめて一言たりとも彼女は発しなかった。

沈黙に耐えかねた私が何か言おうとする度に、彼女は手をかざしてそれを制した。
それは「もう少し待って。今何を言うのが一番良いのか、答えを出すから。」とでも言うように。
先ほどのウェイトレスがやってきたのはそんなタイミングだった。

ふむ。
「明るくて軽い感じの人よ。」と先輩からは聞いていたが、そんな事前に抱いていた印象は粉々に砕け散ったものの、実際の私を見て沈思黙考する態度は、私に良い印象を与えた。
なんというか。。「それは『正しい』態度」だと、私は思ったのだ。
だからこそ、この長い沈黙に付き合ってみようと決めたのだ。

「一つ、聞きたいことがあるわ。」不意に彼女は沈黙を破った。
どれくらいの時間そうしていたのか、にわかにはわからないほどの時間が経っていたと思う。
「何でしょうか?」半ば夢見心地で私は聞き返す。

「今の状況の根本的な原因が、腸にあることを聞いたことはある?」
「いいえ。」私は即答した。
「私が聞いたことがあるのは。。生活用品の化学物質とか活性酸素とかハウスダストとかっていう説ですね。」
「成程。」彼女はメモを取り出した。

「この手のものは食品だから、『効く』だの『治る』だのはご法度なのよね。でも試す価値はある、と思うわよ。」といって私にURLを書いたメモを手渡した。
「ただ、ためこんだものが一気に出るとちょっとびっくりしちゃうかも。」
そういっていたずらっ子のように笑った。

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